ドイツにおけるネオナチの現状と活動|旅行者は被害にあうか?

ヒトラーの掲げたドイツ第三帝国の野望は、1945年5月のベルリン陥落とともに潰えました。同時に、ナチス・ドイツが公然と推し進めたホロコーストをはじめとする人種差別政策も終わりをつげ、戦後のドイツは、その反省を踏まえ、移民や他国の人々にとって住み良い国を標榜するようになりました。

しかし、ナチス・ドイツが歴史の表舞台から去り、戦後すでに70年たとうとする今でも、ヨーロッパの暗部では、いまだに排他的な運動を推し進めている団体が存在します。彼らは、ネオナチと呼ばれ、ひっそりと、ただし着実に、民族主義運動に心血を注いでいます。

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ネオナチの起源と基本思想

戦後から1970年ごろまでは、元ナチス党員を中心にドイツでは「オールド・ナチス」という団体が活動していた、という情報があります。彼らがどんな活動をしていたのか知りませんが、その「オールド・ナチス」が、1970年代後半ごろを境に、「ネオナチ」に進化したとのことです。

もともと、オールド・ナチスとして活動を続けていたのは、実際にナチス期にヒトラーユーゲントとして活動していたものや、戦争へ行ったものなどが含まれていましたが、この1970年代以降に現れる「ネオナチ」の特徴としては、実際にヒトラーを見たことも戦争に行ったこともない、単なる暴力的な「人種差別主義団体」であるというところです。

Sie haben die Nationalsozialistische Diktatur im 2.Weltkrieg nicht mit erlebt und haben die Grundgedanken der Altnazis kritiklos übernommen.
In der Regel unterscheiden sich die Grundgedanken lediglich durch eine deutlich höhere Gewaltbereitschaft der Neonazis.

「彼らは第二次世界大戦中のナチズムを経験したわけではなく、単にオールド・ナチスの基本思想を踏襲しただけである。(1970年以前のオールド・ナチスと比較し)違いとしては、暴力に対する極端なまでの敷居の低さであろう。」

基本的な思想は、戦前のナチスと変わりません。つまり、アーリア人至上主義、および、それ以外の人種の排斥です。また、人種だけでなく、ホモセクシャル、障碍者などもナチズムの原理にしたがえば、排斥されるものとしてリストアップされています。

Die Grundgedanken der Ideologie des Neonazismus basieren im Allgemeinen auf Rassismus, Fremdenfeindlichkeit, Antisemitismus und Gewaltbereitschaft.
Zu den Feindbildern zählen unter anderem Ausländer, Juden, politische Gegner und auch Behinderte, Homosexuelle, sozial schwache Menschen.

「ネオナチの基本思想は、人種差別、外国人排斥、反ユダヤ主義、そして暴力思想である。彼らのターゲットは、とりわけ、外国人、ユダヤ人、政治的敵対者、障碍者、ホモセクシャル、社会的弱者などである」

ネオナチの中にも様々なスタンスの者がいて、何をターゲットにしているかは個々人の主義思想によります。例えば、その差別意識が貧困と失業からきたものなら、矛先は真っ先に「自分たちの仕事を奪おうとする外国人」に向けられるでしょうし、イスラム国に嫌悪感を覚えるものなら反イスラム教徒と化すでしょう。もっと純粋に「白人以外」あるいは「北方人種以外」を毛嫌いする集団も存在します。

ドイツにおける現代のネオナチの活動

表立ってナチスを崇拝することはドイツでは禁じられていますので、具体的に何人くらいのネオナチがドイツに存在しているのか、は不明ですが、ネオナチのシンボルであるスキンヘッド族は1万人程度存在している、とのことです。

スキンヘッド

ただ、スキンヘッドのドイツ人が全員ネオナチではありませんし、逆もしかりで、スキンヘッドでなくてもナチス的思考を持ったドイツ人はいます。一説によると、ドイツ人の20%が、なんらかの形でナチス的な考えに賛同を示している、とのことです。

Die Zahl der Anhänger des Neonazismus nimmt stetig zu. Laut dem Bundesamt für Verfassungsschutz ist davon auszugehen, dass 20% der Bevölkerung rechtsextremistische Ansichten vertritt.

「ネオナチ信奉者の数は増え続けている。ドイツ政府の調べによると、ドイツ国民の20%が極右政策に賛成を示している、とのことである」

近年のデータで、どれくらいこのネオナチによる犯罪被害が起きているのかというと、2010年には15,000件の犯罪被害が生じています。ただ、ふたを開けてみると、そのうちのほとんどがプロパガンダ違反(ハーケンクロイツの利用など)が8割を占め、実際の暴力事件などは800件程度、死亡事故や性犯罪は2010年には起きていません(2009年に死亡事故が一件発生)。

ネオナチ絡みの犯罪

出典:http://www.denktag.de/aufbrechen/deutschland/neonazismus/

以前は、国家社会主義地下組織のような極右テロによる殺人事件が発生したこともありましたが、現状を鑑みるに、そこまで表立って活動をしている組織はありません。

ですので、我々日本人がドイツに滞在したり、旅行していたりして実害をこうむるとすれば、嘲笑、運が悪ければ暴力沙汰といったところでしょうか。私自身、西ドイツにかれこれ4年近く生活していますが、一回もそのような経験はありません。ただ、東ドイツにいくと、差別主義者が多いという話を聞いたことがあります。

必要以上に恐れる必要はありませんが、それでも、夜のベルリンの地下鉄、夜の一人歩きなどで、酔っぱらった人種差別者にからまれた、という話はよく聞きます。ドイツは日本とは違うということを理解し、余計なトラブルに見舞われないよう、節度をもった行動を心がけましょう。