いいことばかりじゃない:海外留学のデメリット

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『人間はみな隣の病室を羨ましがっている病人である』といったのは確かボードレールだったと思います。日本で働いているときは不満たらたらで海外のことが良く見えますが、海外に来てもそれなりに不満はあるもので、失ったものも少なくありません。今回は、海外に来るにあたって変わったことや留学の負の側面などを、私や知り合いの経験を通じてまとめていきます。

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ドイツに来るにあたって失われるもの

今まで留学の良い部分ばかりをピックアップしてきましたし、他の媒体でも割と『留学最高!』的な意識の高い風潮がありますので、一応警告も込めて嫌な部分・負の部分も知っておいた方がよいかも知れません。

私の場合、爺ちゃんの死に目にもあえませんでしたし、元カノとも別れましたし、邪魔だと言われたので実家にあった昔のモノとかも全部捨ててきましたし、日本を去るにあたってとりあえずいろいろなものが無くなりました。勿論、会社も辞めていますし、年金や健康保険など社会保障も現状ストップしていますし、日本の友達も年々少なくなっていくような気がします。海外留学や海外勤務というと一見きらびやかなことのように見えますが、反面、このようにデメリットになることも多いです。

いわゆる「交換留学」のように半年、一年の期限付きの滞在であればいいのですが、終わりのない滞在を考えている人の中には、ホームシックにかかって帰国したり、情緒不安定になってしまう人もいます。私も、何人か知っています(日本人だけではありませんが)。そういうわけで、海外に根強く生き残っているのはいい意味ではタフ、悪い意味では鈍感な人(多分私もそうですが)が多い気がします。

まとめると、安定した人生が失われます。日本にいたから安定しているかと言われると断定はできませんが、少なからず欧州に日本人が一人で飛びだしていくよりは安定しているでしょうし、社会保障も受けられます。少なからず我々は日本語の通じる日本人の社会常識の通じる日本という小さな島国で育ってきたわけで、そこから離れるということは、自らその国の恩恵を断ち切ることになります。

海外留学で直面する困難

まず、思いつくものをいくつか挙げていきます。ちなみに、これらの問題は、日本人が海外に出た時だけでなく、欧米人が日本や中国に来た時にも起こり得る問題ですので、周りでナーバスになっている外国人がいたら助けてあげましょう。

1.言葉・意思疎通の壁

ドイツに来る前は『1年も本気で勉強したらぺらぺらになるだろう』と思っていましたが、そこまであまくもありません。私の友人で、学部時代も含めてすでに5年ドイツに滞在している中国人の友達がいますが、いまだに冠詞や動詞の変化を間違えることがありますし、もちろん私もよく間違えます。

冠詞や文法的な部分は多少間違っていても相手に通じるのでそこまで気に留めなくてもいいのですが、最初に大学に入ったときにやばいと思ったのが、ネイティブ同士の会話に全くついていけないことでした。語学学校で学ぶのはあくまでオフィシャルな部分ですので、こうした砕けた表現にはあまり対応していません。しかも、教師ではなくただの学生ですので発音も悪いですし、中には地方から出てきて訛りの強い人もいます。こうした人々に囲まれて生活をしていると、確かにドイツ語は上達しますが、意思疎通がうまくいかずに嫌になることも多かったです。

2.コンプレックス

ドイツは階級社会です。というのも、幼少時にすでに彼らの将来は決まっており、初等学校の成績で、その先大学に入れるのか、よい職につけるのかということがすべて決まってしまいます。

というわけで、ドイツの大学に来るのは基本的には優秀な部類に属する人だけです。大学院ともなると、さらに優秀な人材がふるいにかけられています。3~4カ国語話せる人も稀ではないですし、勉強も1を聞いて10を知るようなタイプが多いです。そこに交じって勉強をするということは、割と覚悟を擁します。海外に留学できるような人は、基本的には英語が日本では比較的できるほうの方々だと思いますが、それがドイツに来ると一転して劣等生レベルに落ちることもざらにあります。

学力以外にも、大学院にいる周囲のドイツ人・あるいは留学生ですと、金銭的にも恵まれていることが多いですし、何かとコンプレックスを感じることは多いです。

3. 冠婚葬祭

上述の通り、祖父の死に目に会えていませんし、割と親しい友人の結婚式にも出れていませんので、日本で催されるような冠婚葬祭は残念ながら諦めざるを得ません、往復の飛行機代が無尽蔵にあれば別ですが。

結婚式のように初めから予定が決められているような行事であればともかく、そもそも誰かが危篤に陥った時点で飛行機を予約しても、どんなに理想的にフライトしたところで1日かかりますし、欧州ですと間に合わない可能性が高いです。

4. 性格・キャラクター

勿論、私も長いこと欧州にいるのでいわゆる人種や国籍による『カテゴライズ』や紋切り型のレッテル貼りは危険であることは理解していますが、やはり、育った環境として、欧州人は日本人とは異質です。もちろん、日本人の中にも自己主張が強い人はいますし、欧州人の中にもシャイな人はいますので、すべてではありませんが、基本的に日本人が周囲で浮く傾向にあるのは、あまり自己主張をしないからだと言われています。

ついでに、私が見たところ欧米人は割と自分が嫌われることに対してお構いなしです。日本人(韓国人)であれば、割と周囲の目を気にする傾向にありますので、彼らの無神経な言動が逐一理解できずにいます。こうした性格のギャップからか、自然と現地人との交流を避けていくような傾向も多々あります。

私も別にそこまで現地になじんでいるかと言われると怪しいところですが、後学のためと割り切って色々アグレッシブには行動しています。

5. 卒業後の進路・キャリア

ドイツの大学・大学院を卒業したからと言ってドイツでの就職が補償されるわけではありません。むしろ、理系以外の領域では、下手をすれば日本の大卒の就職活動以上の苦戦を強いられることを覚悟しておいたほうがよいかも知れません。

また、ドイツの大学・大学院を卒業し、日本で職にありつけるのか、というと、それも疑問符が付きます。社会人が留学を終えると、おそらく30歳前後くらいの年齢に達すると思いますが、承知の通り、日本での就職は新卒採用がベースですので、いくらドイツの大学院を卒業したとして、いい職につけるとは限らないのです。

http://toyokeizai.net/articles/-/116483

例えば、上記の記事は、ドイツではありませんが、社会人の留学における失敗例を多数紹介しています。

まとめ

色々と書きだしましたが、別に気にしない人にとっては全く気にならない場合もありますし、私も何人かそうした欧米化された日本人を見てきました(これは勿論、ポジティブな意味もネガティブな意味も含んでいます。)結局のところ、海外に来てみて何が起きるか、何を得て、何を失うのかなんて、来てみないと分かりません。仮に欧米に適合できずに帰国するとしても、適合できないということが分かっただけでも収穫です。

テロにあって落命する、ドイツのイケメンや金髪美女と結婚する、親の死に目に会えない、ドイチェバンクの極東マネージャーになる、アウトバーンで突っ込んできたドイツ車にひかれて半身不随になるetc..こうした幸不幸は誰にも予想できません。すべて確率の問題ですが、少なくとも来ないことにはどちらも起こりえません。

私自身、今のところ失ったものも多い反面、得たものも多く、差し引きドイツに来てちょっと得をしたかな、程度に考えています。人生を賭けてドイツの馬券買ったようなものです。結果はまだ出ていません。