MBAの人的資源管理から学ぶその3:現地駐在の意義とコストパフォーマンス

ここドイツには多くの日本人駐在員の方がいて、その多くはデュッセルドルフやフランクフルトなど、大都市に滞在しています。

今回は、人的資源論・経営論的な観点から、駐在員の費用対効果についてみていきたいと思います。

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駐在員の役目とは何なのか

私自身、以前日本の証券会社で働いていたことがあり、海外駐在は一種の花形のように扱われていたのを覚えています。私は実際に海外駐在のチャンスを得る前に会社を退職してしまったので、彼らの役割を実際に体験したことはありませんが、それでも役割としては知り合いなどの話を聞いておぼろげながら理解しています。

さて、その海外駐在員(expatriates)の役割を具体的にカテゴライズすると、以下の3つに分類されると言われています(Harzing. A. W 2001)。

  • Knowledge Transfer (知識やノウハウの伝達)
  • Control and coordination (コントロールと調整役)
  • Management development (マネジメントと支店の発展)
  • 20年ほど前、1990年代後半には、上記の役割のうち「Control and coordination (コントロールと調整役)」が駐在員の役割の過半数を占めていました。要するに、現地に赴き、現地と母店との折衷役などを行うわけです。

    ところが、スカイプなど母店にいながらでも支店をコントロールする術が次第に身についてきたわけで、そうすると次第にこの役割は薄れるようになり、今現在では駐在員の役割の大半を「Knowledge Transfer (知識やノウハウの伝達)」が占めるようになりました。

    特に、支店での知識レベルが未熟な場合、支店の業績をアップさせたい場合、など、この駐在員の役割は非常に大きいわけですが、対して、この「人一人海外におくる費用」というのも実際のところ馬鹿にならないわけで、次第にこれが問題視されるようになってきたのです。

    駐在員の費用対効果とは

    研究によると、駐在員一人当たりにかかるコストは、本国でのコストと比較して、およそ2.4倍(Mercer, 2015)~3.5倍(Reynolds, 1997)といわれています。この支出を数年続けるというのは、企業にとってみればなかなか馬鹿にできないコストなわけで、見直していかないか、という動きもちらほらでてはきました。

    にもかかわらず、安易にこのコストを削減できないのにも理由があります。ドイツやアメリカなど、比較的安全で住んでいる人としても旅行気分が味わえるようなところと違い、例えばアフリカや南アフリカなどを想像してみればわかりますが、あまり中には行きたくないようなところもあります。

    現在、共働きで奥さんのほうのキャリアも重要、というのも欧米では駐在員の問題で、容易に夫一人を駐在員にさせることが難しくなっています。また、年老いた親の介護、子供の教育などを考えると、実際に、本国と同じ費用で海外に行かせるには気が乗らない者も多く、本国での生活と同じ生活水準を保たせるために、やはり、コストがかかるのはしょうがないと思われてきました。この、本国での給料ベースで考えよう、というアプローチを「Home-Country Balance sheet approach」と言います。

    最近になってようやく、この「駐在員のコストや制度」を根本的に見直していかないか、という動きが出てきました。まず、矢面にたつ問題が、上述の通り「コスト」の問題です。他にもその給料をあまりに多く払いすぎるので、それがかえって現地のスタッフの労働意欲をそぐことになる、という考えや、そもそも金だけで駐在員は満足するのか、などの考えも出てきたことから、近年になってこうした抜本的な問題を解決すべく、新しいアプローチがとられるようになってきたわけです。

    近年の欧米間での駐在員制度の見直し

    まず、コストに関しては、例えば現地でのパフォーマンスによってプラスで支払われる給料を変更するなど、給料制度に見直しをする動きがありました。また、長期ではなく、一つのプログラムのみ、短期的な滞在に限定させたり、場合によってはその都度現地に飛行機で赴かせるなど、生活の拠点は本国において、現地への滞在ウェイトを減らす動きもあります(Bonache, 2006; Collings, Scullion, &Morley, 2007; Bonache & Stirpe, 2012)。

    また、現地の職員との給料格差に関しては、職能に応じて支払い基準を変えるアプローチなどがとられています。例えば、上述のように半年以内の短期的な滞在であれば、多少の格差はしょうがないにしろ、現地で採用された外国人などに対しては、現地人と同じ給料スキームか、またそれに少し上乗せした程度の給料を支払うなどです。特に、最近では自らの意思で海外に移民するものも増えており、現地にわざわざ職員を派遣せずに、現地の大学を卒業する自国民を採用する動きなども増えています。

    ここでのアプローチで重要なのが、今までは、海外に駐在するのは「キャリアを母店で積んだ」「専業主婦を持つ(または独身の)」「男性」だったのが、ここ十数年の流れで、この駐在員像が様変わりしたことです。

    駐在員には共働きの妻がいるかもしれませんし、介護が必要な両親がいるかもしれません。また、海外の大学を出る、海外に暮らす人々の数も増えてきたため、必ずしも本国から現地に駐在員を派遣しなくても、現地スタッフを確保するやり方は増えてくるようになりました。

    ここ最近の日本の大企業の駐在員派遣の流れは詳しくは知りませんが、友人の話などを聞く限り、いまだに「専業主婦を持つ」「30代前後の男性」が派遣されるケースが多いと思います。今後、女性の社会進出や、海外に暮らす日本人の数が増えるにつれ、このあり方も変わっていく必要があるかもしれません。