論文の書き方その2:ケーススタディとインタビューの進め方

以前、quantitativeとqualitative researchの根本的な違いについてまとめました。

今回は、qualitative researchの中で重要になってくる「empirical part(経験的部分)」についてまとめていきたいと思います。

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empirical partの進め方

まず、論文を書くにあたって、データを入手することが肝要になってきます。ここで、データの集め方はqualitativeとqualitativeで大きく違うことに注意してください。前者の場合、客観的に見て信頼のおけるデータが求められます。また、そのデータの質は一般的な値から逸脱したものであっては困るわけで、その目的でsecondary data(研究者自身が集めたものではなく、すでに機関や国や他の研究者などが集めたデータ)を引用することが多く、アンケートなどを行う場合その値は「人口の代弁者」であること、つまり一般的な被験者であることが求められます。

かたや、qualitativeのほうはどうかというと、一般的に研究者自身が集めたprimaryなデータのほうが好まれる傾向にあり、インタビューなどの対象も、平均化されたものではなく、むしろ今までの理論に反するようなもののほうが面白いわけです。

さて、具体的にqualitativeリサーチのほうではどのようなempiricalな手法がとられるのかというと、ケーススタディ、または民俗誌的アプローチ、がとられると言われています。ただ、後者のほうはビジネス的なコンテキストにはあまり適しておらず、文化人類学的な手法ゆえ、一般的にはケーススタディ的な手法がとられます。このケーススタディの手法の中には、インタビュー、フォーカスグループ、参与観察(participant observation)などが含まれています。

科学的なインタビューのやり方

さて、前回「科学的態度」についてまとめました。人間はもちろん、バイアスがかかるので100%客観的になることは不可能ですが、それでも、学問においては極力客観的な態度をとる必要があります。

ケーススタディの中で最もポピュラーなものはインタビューですが、このインタビューのやり方も以下の3つに分類することができます。Structured Interview, Semi-structured Interview, Unstructured Interviewです。

Structured Interview(体系化されたインタビュー)

これはもともと用意された質問項目に沿って、機械的に淡々と被験者に質問をおこなっていくやり方です。インタビューを行うものの労力を最小限にし、アンケート結果を集約することが狙いですが、代わりに面白い意見などを拾うことができなくなります。

Semi-structured Interview(準体系化されたインタビュー)

こちらのほうはもう少しオープンなインタビューで、初めから質問項目を用意しておくものの、会話の中で新しい質問が生じたり、新しい意見を聞きだすことが可能で「Building Theory(理論を築き上げる)」目的ではこれが一番おすすめのやり方だと、私の教授は言っていました。

Unstructured Interview(体系化されていないインタビュー)

上述の者とは違い、はなからほとんど何も用意せずにインタビューに臨むやり方です。かなり質問者の技量が問われるうえ、インタビューの結果を集約しづらいので、使いこなすのが難しいです。

さて、理想的なインタビューの数はどの程度でしょうか?5人、10人、それとも20人くらいでしょうか。答えとしては、回答が「飽和する」までが目安だと言われています。どういうことかというと、何人もインタビューしているうちに、次第にインタビューの回答内容に偏りが見え始め、それ以上インタビューを続けても新しい発見が引き出せない、という飽和点があるそうなので、それを目指すのがいいそうです。

インタビューの手法の問題点として、人間が相手なので、まず相手が自分を信頼してくれないことには、正確なデータが引き出せない、という問題があります。また、人間特有の「見栄」が、データの信ぴょう性をゆがませることもあります。年収調査などで、果たして見ず知らずのインタビュアーに何人が本当の年収を告げますでしょうか?また、会社の政策などに関する問題の場合、安易に答えたりしないのが人間の常でしょう。

ほかにも、質問者のほうが「Elite Bias(エリート・バイアス)」といって、回答者の地位に応じて態度が変わってしまったり、という問題もありますし、言語上、時間上の問題もあります。極端な話、話者の答えを録音する、しないでも回答内容はがらりと変わることがあります。ちなみに、私も以前アンケートに協力したことがありますが、かなり厳格なルールが設けられており、雑談すらもアンケートの内容に影響を与える可能性がある以上、トピックは慎重に選ぶ、とのことでした。

こうしたことは、前述のとおり、我々が人間である以上多かれ少なかれ生じてしまうことです。100%客観的な、科学的な態度がとれないということは、こういった手法の短所、限界点を予め知っておく必要がある、ということにつながります。

他にも、フィールドワーク的な手法(これも、レヴィストロースなどを軸とする文化人類学者のあいだで好まれるやり方ですが)などもビジネスの世界ではたまに使われるのですが、時間的に多く費やす必要があったりと制約も多く、やはり主流なのはインタビューでの情報収集だということになります。