グローバルな社会であることがしきりに唱えられています。もちろん、このグローバルという定義のとらえかたには様々なものがあり、単純に我々が国境を越えて行き来しやすくなったことを指し示すこともできますし、社会・経済的な範囲での事象を指し示すこともできます。
今回は、主にドイツの大学院での授業などを参考に、グローバルな社会についての考察をしていきたいと思います。
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そもそもグローバル化とは何なのでしょうか。フリードマンの名著「フラット化する社会」では、テクノロジーがグローバル化を成した一つの要因と述べられています。イギリスの経済学者John Harry Dunningは近代のグローバル化の要因を以下の4つ要約しました、すなわち1)ベルリンの壁崩壊による旧ソビエト諸国との経済交流、2)NAFTAやAFTAなどの国境を越えた経済活動の発展、3)技術革新とデジタル技術の発展、4)世界各国の企業による海外展開、です。
現在、日本にいながら、ドイツにいながらでも確かに我々はグローバル化を実感することができます。スカイプを使えば地球の裏側の人々とも対面して通話することができ、格安飛行機を使えば500€程度で日本からドイツへ飛ぶことができます。経済的、政治的、技術的にも世界がグローバル化していることは明らかでしょう。
さて、もちろんグローバル化の恩恵を我々は数多く受けているわけですが、果たしてグローバリゼーションそれ自体がポジティブなことなのか、ネガティブなことなのかは、また異なる問題です。ちなみに、私の主義主張はどちらかというと中道右派で、行き過ぎた自由主義やグローバリゼーションには反対なのですが、まあその辺は個人的な意見と思って聞いてください。そもそも、ネガティブ・ポジティブのインパクトは人や信条によって違いますし。
ここ数年で難民・移民の問題が急増しました。EU内では経済格差が顕著に表れ、スペインやイタリアなどは明らかに統一通貨の割を食っています(ドイツが得をする一方)。ローマ帝国はヨーロッパから北アフリカまで広大な版図を築きましたが、最終的には分裂しました。今の状況もそれと似ていると言えるかもしれません。
It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change. By Charles Darwin
「もっとも強い種でも、最も知的な種でもなく、最後に生き残るのは変化に適した種である byダーウィン」
さて、今後のグローバル化の流れがどう傾いていくのか分かりません。EUのような地域共同体が多く誕生し、世界がintegrateされていくのか、それとも自由と自治を重んじた独立した国家が多く誕生していくのか、それとも国家のあり方は変わらず人と物の流れだけが増えていくのか。
私達は別に政治家でもありませんし、世の中に対する不平不満を言ったところで世界はあまり変わりませんので、当座めざすところとしてはダーウィンのいうように「変化に対応できる種」になることではないでしょうか。
繰り返しになりますが、私は日本が好きですし、別に日本が嫌いで祖国を離れたわけではありません。日本の文化には海外に誇れる部分がたくさんあると思います。かたや、このままでは世界の競争に負けてしまうと感じられる部分があるのもまた事実です。
日本経済が世界を席巻し、一時期日本型経営がもてはやされた時期もありましたが、現在の東芝やシャープの惨状を見るあたり、結局それに胡坐をかいて変化に対応できないと転落するだけだということがわかります。なぜ火薬と羅針盤を発明した中国が西欧の植民地になったのか、ジャレド・ダイアモンドは中国が明の時代以降、封建的な、鎖国体制に入り、世界の情勢から孤立したためだと述べています。
国主導での英語教育やグローバル化には限界があります。倒幕運動が政府主導ではなく志士たちの手になってなされたように、今後日本という国がグローバルな環境に取り残されないためにも、一人ひとりが戦略的な視野をもって臨んでいけるあり方ができたら理想かと思います。
直感的に正しそうなことが必ずしも正しくないのが学問の世界です。世界規模でグローバル化が行われ、EUなど地域共同体の誕生やFTAの締結によって貿易がしやすくなりました。さて、それでは貿易が活性化することで、果たして二国間の景気はシンクロするのでしょうか、という問いがあります。
これは金融商品などの分野でよく使われる問いで、要するに、ポートフォリオなどを作成する際に、アメリカの株だけを買っておくとアメリカで恐慌があった時に怖いので、リスク分散のために他国の証券にも手を出して、なるべく有事のリスクを軽減しておこう、という、Don’t put all your eggs in one basket(卵を一つのかごに盛るな)、という考え方です。
ところが、世界経済がグローバル化し、物と金の流れがより緊密になるにつれ、アメリカの経済がぽしゃったら、中国や南アメリカの経済も同じようにぽしゃるんじゃないのか、という考えがでてきました。なにせ、今の世界でアメリカと貿易を行っていない国なんて存在しませんし、アメリカの景気が悪くなれば他国の景気も悪くなりそうなのは直感的に理解できるかと思います。
面白いのが、直感的には、そうであっても、理論的にはそれと異なる答えが導き出されるところです。例えば、ヘクシャー・オリーン仮説によると、貿易の拡大はその国ごとに優位な産業を特化させると言われています。
the response of business cycle synchronization to trade integration may depend on variables such as differences in structures of production among country pairs by Klugman
「景気循環と貿易の相関関係は、その国同士の産業構造によって異なるだろう byクルーグマン」
というわけで、貿易が加速する→同じ財を貿易しても意味がないので、貿易自由化の促進によって特定の産業に特化した構造が生まれ、かくして構造自体が異なるので、景気循環は波及しにくい、という理論が誕生したわけです。
ところが、Frankl(1998)などの反論ものちに出てきて、結局国の産業構造による、もしくは石油を算出しているのか、中間財貿易の多寡はどうかなど、考慮に入れるべきファクターが多くなりすぎて、スタンスとしては曖昧な「国と地域による」というスタンスがよくとられています。