ドイツと日本の国際競争力の違いとは?なぜドイツの輸出産業は成功したか

今回は、ドイツの経済が強い理由について、企業の海外進出、特に中小企業の海外戦略に焦点をあてて、まとめていきたいと思います。

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ドイツ経済を牽引する底力とは

ドイツの経済は産業で成り立っているといっても過言ではありません。自動車産業をはじめ、多くの高品質な製品を作り出せる環境こそが、ドイツの輸出力を拡大させ、国際的な競争力を後押ししています。

別に輸出額が高いからといって経済的に成功しているとも限らないのですが、ドイツの場合輸出製品は資本集約型、あるいは知識集約型財ですので、バングラディッシュのように労働集約財を輸出している国とは根本的に産業構造が異なります。

EU内では比較的容易に交易を行うことが可能ですので、それで貿易で利益を上げている点ももちろんありますが、それだけではなく、世界の産業ごとのシェアで見ても、ドイツの中小企業の持つ世界のマーケットの占有率(特に上位3位までを比較すると)は高いです。

hiden champion

Danach gibt es weltweit insgesamt rund 2700 dieser heimlichen Marktführer. Alleine 1300 davon – also ungefähr die Hälfte – sind in Deutschland beheimatet

「世界中の2700社の”隠れたチャンピオン(中小企業が、世界シェアのトップ3位までにランクインしている数)”を比較すると、ドイツがほぼ半数を占めている」

かたや日本のほうはというと、かつては円安にものを言わせて世界のマーケットで成功を収めていましたが、最近ではやや下降気味です。特に、人口8000万人のドイツと比較すると日本の人口は1億2000万人もいるので、その規模で比較すると上述の隠れたチャンピオンランキング(3位)は、やや物足りないかと思います。

実際に、日本とドイツの産業を分けているのは、どのような環境、要因、政策なのでしょうか?今回は海外マーケットを焦点に当てて、簡単にまとめていきたいと思います。

国際展開の違い

日本とドイツの企業の海外展開戦略を見比べると、いくつか面白い部分が見えてきます。まず、日系企業の場合、海外進出の理由はというと、もちろん海外市場の開拓も主たる理由のひとつではありますが、その他に現地の安価な労働力の獲得という側面を持っています。というのも、一部の東アジア地域を除いて、東南アジアをはじめとする日本の近隣地域の経済は発展しているとはいえません。

内需が未熟な国に大量に高品質な製品を輸出することもできませんし(最近の傾向としては現地のマーケット開拓という側面も増えてきましたが)、基本的なスタンスとしては「現地の安い労働力を使って、安価で高品質な製品を作る」というものです。こうして、自動車産業をはじめとする多くの大企業が東南アジアに工場を持つようになりました。

さて、こうして大企業が海外に進出すると、中小企業はどんな結果が待っていますでしょうか。彼らは大企業から発注を受け、それに見合う中間財を作ってビジネスをおこなっていたため、当然大企業にくっついていかざるを得ません。ということで、中小企業のとりうる作戦としては、1)海外に進出した大企業の近くに工場を設置する、2)日本で生産した製品を海外の日系企業向けに輸出する、というような形になってきます。

統計を見れば明らかですが、日本の中小企業の場合、ドイツの中小企業に比べると圧倒的に中間財(マーケットに出荷できる状態の財を「最終財」というのに対して、部品部分などを「中間財」という)の輸出量が多いです。ですので、根本的に多くの企業の場合、国際展開をするのはマーケット獲得というより、サプライチェーンの川下が動いたことで、やむを得ず自らも動かざるを得ない、ということが多いようです。

ということで、一見して日系企業の輸出高が多いように見えても、実際には日系企業同士の取引という側面が多く、海外市場の開拓に成功している企業は一握りです。特に、中国との貿易高が多いように見えますが、こうした地域でも現地の日系企業を相手に国際取引をしているケースが多く、要するに日本人が日本人と貿易をしている面白い構図が成り立つわけです。

かたやドイツのほうはというと、周りは同じ通貨を持つEU 圏ですので、周囲への輸出は容易です。アプサラ理論によると、周囲との貿易取引を通じて国際的なビジネスの経験をつむことで、将来的な直接投資のプラットフォームが完成すると言われていて、その意味でドイツは言語もビジネスカルチャーも似たような周辺国との貿易で経験値をつむことが可能です。

uppsala model

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(参照 1977年 Johanson and Vahlne)

実際に、ドイツの輸出を行っている企業の8割近くが、最初の貿易相手をオーストリアかスイスに設定している、という資料があります。

また、貿易相手も日本のように直属の大企業、というわけではなく、最終財を、西欧をはじめとする熟成したマーケットに展開させることが可能ですので、自然、取引相手もさまざまなバリエーションの中から選択でき、国際競争力が高まるというというわけです。

もうひとつ、ドイツと日本で大きく異なるのが大学の構造やR&Dです。ドイツの企業の主な提携先は国や大学など公共機関です。一方で日本の企業の場合は私的な研究施設などになります。

ドイツという国の特徴として、教育を国家の基本にすえていることから、大学の授業料も発生しませんし、さまざまな分野から優秀な教授をどんどん招聘して学生のレベルアップにつとめています(それゆえ大学の試験や勉強も過酷なものになっています)。

また、ドイツの中小企業で驚いたのは、学生の卒業論文を中小企業と一緒に書くケースが多い、ということです。これであれば学生は実践的なデータが得られますし、企業も欲しいデータが安く手に入るので、ウィンウィンです。

potsdam institut

potsdam institut

ポツダム研究機関

R&Dの連携先は、私的な企業であるよりも公的機関であるほうが企業のパフォーマンス、ひいては国際マーケットでの成功に影響を及ぼしやすい、という研究もなされていて、この研究開発の熱心さもドイツ企業の国際市場での成功に一役買っているはずです。

もちろん、上述したように輸出高が多ければ多いほどいいというわけでもありませんし、経済を図る指標は貿易高でもGDPだけでもないのですが、総合的に見てやはり、ドイツという国の経済と産業は一種の成功を収めたパターンだと思います。

もちろん、ドイツという環境、地理的条件でしか行えないような戦略もたくさんありますので、全部のよいところをまねするのは難しいですが、やはりお手本にできるところはお手本にできたらと思います。

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