一発逆転を狙ったナチス・ドイツの最終兵器たち

人間、追い詰められるとなんにでもすがりたくなるもので、それは国家も同じです。第二次世界大戦末期、もはや東西から迫りくる連合軍に対して打つ手のなくなったナチスドイツは、奇抜な兵器を次々と生み出し、奇跡の一発逆転を狙うようになります。

今回は、そんなナチスドイツの最終兵器、と呼ばれるものについてまとめていきたいと思います。

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ナチスドイツの最終兵器

日本もフィリピン失陥後、もはや坂道を転がるように敗戦への道を歩むわけですが、そこで連合軍に一矢報いる程度のもの(紫電改など)は多少なりとも出てきましたが、それでも戦局を一変させるまでには至りませんでした。

一発あってあのアメリカとの絶望的な戦力差を埋めるためには、もはや原爆レベルの兵器しかなかったかと思います。つまり日本の場合「終戦前に開発され、かつたくさんあったらもしかしたら戦況がちょっとだけ変わったかもしれない兵器」はありました。まあ間に合わなかった時点でどうしようもないのですが。

一方ナチスドイツはというと、こちらもやはり戦局を劇的に変える、とまではいかないものの、割と「運用次第では戦局を変える可能性のあった兵器」を終戦までに開発していました。戦前の産業水準を見れば明らかで、やはりドイツとアメリカは頭一つ抜けています。そんなわけで、惜しくも戦局を変えるまでには至らなかったものの、いまだにファンの間で根強い人気を誇る、ロマンあふれる兵器についてみていきましょう。

1. メッサーシュミット Me262

世界初のジェット機です。1944年の6月に初飛行を果たしたので、終戦まで1年程度活躍したことになります。ジェット機ですので、従来の戦闘機よりも格段に速く飛行することが可能です。そうすると、単純に捕捉が困難なので、ヒット&アウェイの戦術でドイツの上空を飛び回る爆撃機を撃墜することが可能だったわけです。

ところが、なぜかこのオーバースペックなジェット機を、ヒトラーは爆撃機として運用することを命じます。最終的に対爆撃機用戦闘機として運用されることになりますが、この運用の変換がメッサーシュミットのMe262の戦闘機としての実践投入を大きく遅らせることになります。

最終的にメッサーシュミットMe262はロケット弾を装着し、ドイツ上空に迫る連合軍をばんばん撃墜するまでに改良されますが、衆寡敵せず、連合軍の物量攻撃の前にドイツ空軍は壊滅しました。ちなみに、メッサーシュミットMe262の構想は日本に持ち込まれ、それを土台にジェット飛行機の橘花が作られましたが、実践投入はされていません。

メッサーシュミットMe262

メッサーシュミットMe262

出典:http://herbert-thiess.de/Laber/LeistungssteigerungMe262/

2. V1/V2/V3ロケット

VはVergeltung(報復)の略称で、報復ロケット1号、2号、3号、と、漫画に出てきそうな名前のロケットです。ちなみに、兵器の運用はビジネスと似ていると思うのですが、いくら優秀な頭脳が優秀な技術を開発しても、運用戦術次第ではまったく無駄になってしまう、というところです、上述のメッサーシュミットのように。

さて、このV1/V2/V3ロケット、もはや戦争を優位にすすめるため、というよりも、イギリス方面にたくさんぶっ放して、たくさん死んでもらい、ちょっとでも厭戦気分を高めよう、という代物です。技術レベルは全く違いますが、方向性としてはどことなく日本軍の最終兵器、風船爆弾に通じるものがあります。

1944年9月に、はじめてV2ロケットがパリにむけて、ついでベルギーに向けて放たれます。文字通り報復兵器なので、相手の軍を打ち負かしたり、相手の工場を破壊するというよりは(そもそもそんな命中率もなかったので)、相手の国民を無差別に殺傷することだけが目的でした

実際に、実践の中で使われたのはV1/V2までで、固定砲台であるV3は日の目を浴びることなく、レジスタンスの手によって破壊されました。V2よりもより精密な砲撃が可能であったとされるV3ですが、威力のほうは微妙だったうえに時間のかかる兵器だったようで、これが開発されていたからと言って戦局が一変したかというと怪しいところです。

結局は限られた人的資源をどこに注力し、どんな戦略をたてるのか、によって兵器の運用は異なってくるため、もしヒトラーの構想が報復兵器にとらわれず、まったく別の方向に向けられていたら、また別の斬新な兵器が開発されていた可能性はあります。

3.マウス

こちらは実践投入されていない兵器です。ナチスの開発しようとしていた超重戦車でしたが、終戦に間に合いませんでした。構想としては、最強の防御力を兼ね備え、どのような戦車によっても破壊されないようなものを作れば、最強ではないだろうか?という、日本でいう不沈戦艦の武蔵大和が作られたのと同じようなアイデアに基づきます。

マウス

マウス

Overall, Maus was an interesting design but it would be of limited combat value because of its poor mobility and heavy weight making it more of a mobile fortification rather than a super tank.

「マウスは確かに興味深いデザインだったけれども、武器としての有用性があったかどうかは怪しい。あまりに防御力に重点を置きすぎて、機動性のほうがおろそかになっていたからだ」

確かに、インフラが整っていない道路を通れませんし、橋なども重量が仇になって通過できない可能性があります。そもそもこの超重量戦車を大量に製造・運用する産業力は、空爆で工場を破壊されまくったドイツにはもはやありませんでした。

司馬遼太郎か誰かの言葉で、「1隻の百発百中な戦艦と、100隻のたまにしか当たらない戦艦が打ち合ったら、結果的に99隻のたまにしか当たらない戦艦が海上には残る」という言葉通り、もはや最終局面にいたって、こうした最強の戦車が10台、20台運用されたところで、もはやソビエトとアメリカの物量戦術の前にはどうしようもなかったと思います。

他にも自動車大国のドイツは、大戦中にいろいろと超大型の戦車を作り出そうとしていたようですが、最終的にこれらは間に合いませんでしたし、間に合ったところでどうしようもなかったことでしょう。

兵器・産業としての質を見てみると、ドイツの場合アメリカに唯一対抗できる、あるいは優るものがあったと思いますが、それが戦局を変化させるかどうかは別問題です。日本にも同じことが言えますが、アメリカとソ連が敵についた時点で、すでに負けが決まったようなもので、将棋で言えば、こっちの持ち駒は失ったら元通りにならないのに、アメリカの持ち駒は毎回回復されるような状況です(補充できない以上、ドイツや日本の場合、超重量戦車や不沈戦艦のように、死なない駒を作成する必要があったのですが)。

兵器の運用というよりも、戦略、外交としてすでに負けていたようなものです。とはいえ、こうした末期の科学技術を賭した敗戦国の兵器は、なんとなく判官びいきのロマンを掻き立たせます。