MBAの人的資源管理から学ぶその5:シャープ・日本型経営はなぜ没落したのか

ここ数年間、日本の企業をめぐる悪いニュースが続きました。シャープが台湾企業に買収されたこと、東芝が粉飾決算をおこない、実際には多額の赤字を計上していたことなどは、まだ記憶に新しいと思います。今回は、なぜ世界を席巻した日本企業がこうも没落してしまったのか、についてまとめていきたいと思います。

日本型経営は失敗したのか

まず、日本型の経営と、西欧型の経営を分類すると、以下のような違いが見受けられます。日本型の経営の場合、そのスパンが長期的で、授業員の雇用が安定していることが特徴の一つです。シェアホルダーの役割も、今までは持ち合い株などが主流で、経営にはそこまで口やかましくしてきませんでしたので、企業としても長期的な経営戦略がたてやすかったのでしょう。

かたや、アメリカ型の経営は、どちらかといえばシェアホルダーの意見に左右されやすく、それゆえ短期的な利益に走りがちな傾向です。ちなみに、ドイツ型の経営は、教授曰く、日本型とアメリカ型の中道あたりに位置する、とのことです。

さて、ここで少し経営における「戦略strategy」というものを考えてみたいと思います。俗に言う「Strategic Management(戦略的マネジメント)」というものです。例えば、以下のような定義が分かりやすいのではないでしょうか。

How firms achieve and sustain competitive advantage
Teece, David J., Gary Pisano, and Amy Shuen (1997)

「企業がどのように競争優位を手にし、それを保持するのか」

という目的で立てられる戦略のことを、彼らは「Strategic Management」と称しています。ちなみに、competitive advantageについては、かの有名なポーターがちょいちょい言及しており、それゆえ彼の理論は、産業内での優位をどのように確保し、どのようにその地位を脅かされないようにするのか、という点に向けられています。

30年前、バブル崩壊の直前から、いやバブル崩壊後にかけてもなお、日本の電子産業は未だに世界の多くの分野で大きな力を保持していました。それが次第に縮小し、多くの電子産業が事業を売り払い、縮小化の流れに移行しています。

シャープの例と日本電子産業の没落

例えば、シャープ没落の原因ともいわれているLCD産業を見てみても、20年前、1997年の段階で日本の市場占有率は80%で、のちにシャープを吸収することになる鴻海のホの字も出てきませんでした(出典:中田行彦. “日本はなぜ液晶ディスプレイで韓国, 台湾に追い抜かれたのか?.” 法政大学イノベーション・マネジメント,2008)。

それが20年のうちに、どのように競争優位を脅かされ、買収されるに至ったのかに関しては様々な意見が述べられています。例えば、上述の中田氏の論文によると、20年前の段階では電子産業では暗黙知のすり合わせによって技術が進歩し、それゆえに日本型の経営が優位性を持っていたが、次第にインターネットの普及やデジタル化の普及などで、暗黙知を有さない企業でもそういった産業に参入することが安易になり、最終的にサムソンのような水平統合型(シャープは川上から川下まですべて自力で行う垂直統合型)の企業が勝利した、と言っています(プラス、投資のタイミングなども述べられていますが)。

逆に言えば、自動車産業のように技術のすり合わせが難しく、参入障壁の高い産業では、まだ日系企業はかろうじて持ちこたえています。

ということは、韓国・中国といった安価な労働力をフルで活用できる東アジア諸国の参入しやすい産業にもろに突っ込んでいったために、シャープは戦争に敗れた、ということでしょうか。

おそらく、それは一つの答えです。戦う戦場を見誤ったと、結果論的には言うことができるかもしれません。価格競争になってしまえば、台湾や韓国の企業に勝ち目はありませんし、そこに拘泥し、新しい工場をどんどん作ったことがまずは敗因の一つかと思います。

そして、もう一つは私の考えですが、組織論的に、日本の企業はここ2,30年、イノベーションの力を失い、それが他のアジア諸国との差別化ができず、価格競争に巻き込まれてしまったのではないか、と考えています。

まず本質的に、大企業は時代の流れに柔軟であることが難しい、と言われています(Gupta, Anil K., Ken G. Smith, and Christina E. Shalley 2006)。いわゆる大企業の罠、というもので、大きな会社は当然企業内のルーチンを行う必要があるため、物事は体系化され、新しいアイデアが生み出しにくい環境に陥ります。

加えて、日本的な経営のやり方は、終身雇用制度、年功序列制など、企業内でのローテーションはあるものの、基本的に内部で完結してしまうものですので、中途採用者などからの新しいアイデアが得られずに、その内部で得た意見だけがぐるぐると回ることになります。

(ちなみに私は、日本型の経営を悪く言っているのではなく、日本型の経営の改善余地のある部分を述べているだけです。現に、トヨタも日系企業ですが、確固たる地位を自動車産業で保ち続けています)

また、シャープにとって悪く作用したのは、技術のブラックボックス化をはかるために垂直統合型の経営方針をおこない、他社との連携をあまり重んじずに、独自の知識のみにこだわろうとした点なのではないでしょうか。サムスンはかたや、その真逆の水平統合型で、これは部品は様々な会社に発注し、自社はその組み立てやマーケティングを担当する、という、自社の独自の技術力は失われるものの、柔軟に対応できやすい経営方式です。

そして、この、どちらのやり方がいい、というのは、おそらく時流によるのだと思います。20年前、まだデジタル化の波が押し寄せる前は、時勢は自社独自の技術を持つ日本企業に有利に働きましたが、現在のように情報が簡単にインターネットで共有できるようになってしまうと、今度はサムソン型の方法が主流になっていくかもしれません。そして10年後、またどうなるかは誰にも分かりません。

ただ、そうした「時勢に沿った」経営ということで、dynamic capabilityという経営戦略がTeeceという人によって述べられています(Teece, 1997)。

We define dynamic capabilities as the firm’s ability to integrate, build, and reconfigure internal and external competences to address rapidly changing environments.

「ダイナミック・ケイパビリティとは、企業が環境の急速な変化に対応するために、柔軟に内外の資源を集約し、確立し、再構築するための能力である、と定義する。」

結果論で言ってしまえば、おそらくシャープの戦略ミスは「投資すべきでないところに投資した」ことなのでしょう。ただ、もう少し俯瞰的に見てみると、おそらく根本的な問題は、組織が柔軟性を欠くようになり、物事、とくに時代の流れに柔軟に対応できなくなったことではないでしょうか。

こうした柔軟な企業をどのように作っていくのか、それは組織論的な話になってくるので、またいずれかに日を改めて紹介できたらと思います。

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