ドイツの大学院でセミナー講義を受講してみよう

ドイツの大学・大学院で単位を修得するためには、実習や卒論を除けば、大きく分けて「講義」と「セミナー」に分かれています。講義のほうは、大体日本と変わりません。教授の講義を聞き、最終的に筆記試験をクリアすることで、単位を貰えます。

一方で、ドイツのセミナー制度は日本とは多少毛並みが異なります。今回は日本のセミナーとは一味違った、ドイツの大学のセミナー制度に関してまとめていきたいと思います。

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ドイツのセミナー制度に関して

日本の場合、セミナーは、1年や2年などの期間を通じ、特定の教授のもとで教えをうけ、卒論まで仕上げてしまうケースが多いかと思います。ドイツのセミナー制度は、それと比較するとより一層短期的な、つまり、1セメスター限りで終えられることが多く、教授とのつながりもそこまで深くありません。

具体的にこのセミナーで行うことと言えば、「セミナー論文(Seminararbeit)」を完成させることです。試験を代わりに課さずに、このセミナー論文の出来をもって単位認定する教授が多く、それ以外では、プロジェクトの完成、ビジネス系では新しいビジネスの立ち上げなどが単位認定されることもあります。

ドイツのセミナーにおけるスケジュール感

実際に、ドイツのセミナーに応募すると、いったいどのようなことが行えるのか、時系列で追っていきたいと思います。

1.応募期間(セメスター開始直前)

まず、セミナーの場合、他の講義と異なり、人数制限が設けられているパターンが多いです。そのため、学部時代の成績、院での今までの成績、その他の特徴などをもとに、応募者を絞り込むことがあります。

このセミナーの応募期間に関しては、セメスターの始まる前、いわゆるセメスターとセメスターの間にある「休み(Semesterferien)」期間内に行われることが多く、インターネットなどで定期的に確認しておかないと、見落とす可能性があります。

また、登録の際に「前の学期で国際ビジネスの授業を選択した者」「統計の知識がある者」といった要件が科せられることも多いです。逆に、こういった要件がない代わりに、単に「早い者勝ち」というところも中にはあります。この辺はゼミの教授の裁量次第です。

2.選考通過後

無事、選考を通過すると、そのセミナーに参加する権利が与えられます。ところが、ここで一つ注意しなくてはいけないのが、時間割によっては、参加したいゼミの時間が被ってしまい、どちらか一方をあきらめなくてはいけない、という事態が多々発生することです。

特に、セミナーの最初に行われるオリエンテーションミーティングは全員参加必須のイベントです。ここで、他のセミナーの開講時間などと被ってしまうと、どちらかの単位を落とすことになります。

ただ、こういった場合、教授に直談判することで、例外的に遅刻や早退を認めてくれることがありますので、一応あきらめずに教授やそのアシスタントに相談してみましょう。

3.キックオフ・ミーティング

上述の通り、この一番に行われるキックオフ・ミーティングはとても重要です。この最初のミーティングで、例えば今後のスケジュール、グループセミナーであればグループ決め、論文の提出方法などの説明がなされます。

基本的に、セミナーのメインポイントは「セミナー論文の提出」および「論文に関するプレゼンテーション」で、この2つをおこなうことで単位認定される仕組みです。この最初のミーティングでもっとも重要な情報は「どんな勝った形で単位認定がされるのか」です。論文だけなのか、それともセミナー中の発言なども加算されるのか、などなど。

また、論文を書く際には、基本的に教授のアドバイスが必要になりますので、教授との面談はいつが可能なのか、テーマはいつまでに決めるのか、などの情報も、ここでしっかり押さえておく必要があります。

4.論文の作成

論文の種類には大きく分けて2種類あり、「Qualitative(定性的な)」か「Quantitative(定量的な)」です。前者のほうは、今までの研究をもとに、理論を自分で作り出す方向性の論文で、時に哲学的な態度が必要になります。この場合、インタビューやフィールドワークなどが利用されます。

後者のほうは、既存の理論をもとに、数値化した研究をおこなうもので、例えばビジネスや経済学の世界では、統計的な手法で「社員の英語力と海外展開」「オリンピックと経済発展」などの関係性を調べる計算が行われます。特にビジネスのフィールドでは、実地的なデータが必要になるので、アンケートなどをもとに、データ収集をおこなうことがあります。

日本のセミナーのように、毎週講義があって、教授がなにかを教えてくれる、というよりも、この論文作成の部分は基本的に自分で、あるいはグループで行い、教授の役割はせいぜいアドバイスなどのサポート役です(論文作成前に、2~3コマ授業をおこなうことも多々ありますが)。

注意しなくてはいけないのが、論文であって「レポート」ではないところです。スケジュールでいえば、理想を言えば「1ヵ月」前には論文の資料集めに取り掛かっておきたいところです。合計で、100時間以上は論文に費やせる体制を整えておけることが理想です。

5.プレゼンテーション

論文の提出→プレゼンテーションか、プレゼンテーション→論文の提出、のどちらかの順番ですが、私の経験ではプレゼンテーションのあとに論文を提出するパターンが多いです。

プレゼンはそのセミナーの言語に基づいて行われますので、英語なら英語、ドイツ語ならドイツ語です(ただし、ドイツ語のセミナーでも、論文の提出は英語可のところが多いです)。

プレゼンテーションでは、パワーポイントを駆使してできるだけ他のセミナー生徒に「分かりやすい」「退屈しない」説明を心がけましょう。プレゼンテーションが終わると、教授や他の受講生からの質問タイムとなります。

6.論文の提出

論文の提出方法にはいくつかルールがあります。例えば、文献の引用方法のルールは教授によって異なり、どのタイプを使うのか統一する必要があります。

MLA形式
Bandura, Albert. “Human agency in social cognitive theory.” American psychologist 44.9 (1989): 1175.

APA形式
Bandura, A. (1989). Human agency in social cognitive theory. American psychologist, 44(9), 1175. 

また、基本的に論文は「メールにて」+「製本にて」の2パターン、両方のやり方でもって提出する必要があります。製本は、町中のコピー屋で行うパターンと、文房具屋で道具を買ってきて自分で行うやり方がありますが、前者のほうが簡単ですし、5~10ユーロ程度で見栄えもいいので、私は前者をお勧めします。

製本の見本

https://www.bachelorprint.de/studienarbeiten/facharbeit-drucken-binden/

例えば、このような製本で5ユーロ、かかる時間はせいぜい10分~20分程度です。修士論文などの際には、ハードカバーのもう少しちゃんとしたものをオーダーする必要がありますが、セミナー論文ではこれくらいで問題ありません。

また、試験前、締め切り前には大勢の生徒でごった返しており、混む場合があるので注意しましょう。