ドイツの反応:ドイツメディアは安倍総理の選挙勝利をどのように報じたか?

日本の衆院選挙が終えられました。台風の中、まさに荒れた形の選挙となりましたが、ふたを開けてみれば与党の圧勝のようでした。

今回は、この日本の衆院選挙とその結果を、ドイツのメディアがどのように報じたかをまとめていきたいと思います。ちなみに、ドイツのメディアは左派が多いので、基本的に日本の自民党に関してはあまり好ましい記事を書きません。

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ドイツのメディアが報じた日本の選挙

メディアには偏向報道はつきものです。別にそれが悪いというわけではなく、彼らもそれぞれの信条をもとに記事を書いているので、会社ごとによって偏りがでるのは当然でしょう。これはむしろメディアを閲覧する側の問題で、あまり一面的にメディアを鵜呑みにするのではなく、様々な方面から情報を収集したほうが視野が広がります。

さて、今回の選挙、ドイツでも割と大きく報道されていたので、今回はいくつかの新聞記事を抜粋し、紹介していきたいと思います。

1.Spiegel紙

まずは、オンラインで簡単に読めるSpiegel紙がどのように報じたか見てみましょう。小見出しはこうです。

Shinzo Abe hat die Parlamentswahl in Japan haushoch gewonnen, er kommt damit seinem Ziel näher: die pazifistische Verfassung des Landes zu revidieren. Dabei nutzt er geschickt die aktuellen Spannungen mit Nordkorea.

「安倍晋三は衆院選挙で圧勝をおさめた。これで、彼の目的である憲法9条改正にまた一歩近づいたわけである。彼はそのために、巧みに北朝鮮との緊張関係を利用してきた」

経済的な話などには触れず、Spiegel紙はもっぱら紙面で「憲法9条改正」の話を長々と取り扱っていました。紙面の内容を要約すれば、今まで北朝鮮がミサイルを発射するたびに安倍晋三は過敏に反応し、日本人の不安感を煽ってきた、なので、今このタイミングで北朝鮮がミサイルを発射して一番喜ぶのは、それを憲法改正に上手く利用できる安倍総理である、という論調です。

まあ、もっともな意見でしょう。外に共通の敵をつくって国内を統一させるのは、政治の常道です。

また、紙面では、選挙で圧勝したにも関わらず、憲法改正の道はまだまだ容易ではない、と語っています。日本人(特に年配の世代)は戦争に負けたので戦争に対してアレルギー反応を起こしている、とのことです。まあ、これももっともですね。

最後はなんか以下のように皮肉気味にうまくまとめられていました。なんか安倍さんが歴史ドラマに出てくる黒幕のように扱われていて、一番読んでいて面白かったのはSpiegel紙でした。

Das Schlimmste, was dem Verfassungsrevisionisten Abe jetzt passieren könnte, wäre, dass Nordkoreas Herrscher Kim plötzlich keine Raketen mehr abfeuern lässt und auf sein Atomprogramm verzichtet. Doch darum braucht Abe sich nicht zu sorgen: Die nächste Provokation aus Pjöngjang kommt bestimmt.

「さて、安倍首相の改憲への動きに水を差すものがあるとすれば、金正恩が突然ミサイルを打ち出さなくなり、核兵器を廃絶すると言い出すときだろう(そうすると、憲法改正の大義名分を失うので)。でも、その心配はないよ、安倍さん、ピョンヤンのやつらはどうせまた挑発してくるはずだ」

2.NTV

続いてNTV。小見出しは以下の通り。

Japans Regierungschef Abe hat einen großen Wahlsieg gefeiert. Mit seinem neuen Mandat könnte er den streng pazifistischen Kurs des Landes ändern. Nun kündigt er eine härtere Haltung gegenüber Nordkorea an.

「日本の首相である安倍が選挙での勝利を祝福した。彼の新しい議席たちとともに、これで長らく日本が歩んできた平和路線を切り替えることができる。今や彼は北朝鮮に対する強固な姿勢をあらわにしているのだ。」

こちらも北朝鮮と憲法改正の問題です。Spiegel紙に出てくる安倍首相像は老獪な悪代官、といったところですが、NTVの紙面はもうちょっと淡々としたものでした。メルケルさんのことも触れています。

Bundeskanzlerin Merkel gratulierte Abe. Sie nannte Japan einen “wichtigen Wertepartner für Deutschland in Asien”. Auch Regierungssprecher Steffen Seibert betonte, die Bundesregierung freue sich auf die Fortsetzung der “traditionell engen, freundschaftlichen, vertrauensvollen Beziehungen” der beiden Länder.

「メルケル首相も安倍首相を祝福した。メルケルは、日本のことを“アジアでもっとも価値のあるパートナーの一つ”と称した。政府スポークスマンのシュテファン・シーベートは、両国の“伝統的で、友好的で、信頼のおける”関係をドイツが喜ばしく思うことを強調した。」

中国に遠慮してか、“もっとも価値のあるパートナー”、とは言わないところがメルケルさんらしいですね。経済的にも今や中国はドイツのお得意様です。

3.Frankfurter Allgemeine

続いて、自民党嫌いなことで有名なFrankfurter Allgemeine新聞を見てみましょう。小見出しは以下の通りです。

Laut Hochrechnungen könnte die Koalition von Japans Ministerpräsident Shinzo Abe mehr als 310 der 465 Sitze gewinnen. Damit erreicht sie voraussichtlich die Zweidrittelmehrheit – und kann so eine Verfassungsreform angehen.

「予想集計によると、安倍晋三の与党連合は、今回の選挙で465の議席のうち310を手に入れた。これによって、彼は議席の3分の2を手に入れたことになり、憲法改正に着手できるようになる」

今回は、Frankfurter Allgemeine紙の論調はそこまで辛辣なようには見えませんでしたが、紙面の最後を、突然以下のような文面で締めくくっているのは気にかかりました。まるで今回の台風と大雨が、日本の今後を暗示しているとでも言いたげですね。

Die Wahl wurde durch heftige Regenfälle beeinträchtigt, die im Vorfeld des außergewöhnlich starken Taifuns Lan über das Land zogen. Der 21. Taifun der Saison – so die japanische Bezeichnung – soll nach den Vorhersagen in der Nacht zum Montag die Hauptinsel Honshu mit der Hauptstadt Tokio treffen. Am Sonntag wurden zwei Todesopfer gemeldet und mehr als 250 Flüge gestrichen. Die Wetteragentur warnte die Bevölkerung vor Erdrutschen, angeschwollenen Flüssen und hohem Wellengang. In einigen Städten im Südwesten verschiebt die Stimmauszählung sich wegen des Taifuns nach Medienberichten auf Montag oder noch später.

「日本に近づいている特大台風のもたらす雨によって、選挙は文字通り水をさされた形になった。天気予報によると、台風二十一号は月曜日の夜に東京のある本州を直撃する見込みだ。日曜日には、二人の死者が報告されており、250もの飛行機便がキャンセルされた。天気予報士は、山崩れや高波などに注意するよう呼びかけた。南西部の一部の都市では、開票を遅らせたとのことである。」

4.Zeit

最後は、ドイツで一番読まれているというZeit紙を見てみましょう。ウィキペディア情報によると中道左派の新聞のようです。小見出しは以下の通りです。

Die rechtskonservative Partei von Japans Ministerpräsident Shinzo Abe liegt laut ersten Prognosen klar vorne. Die Oppostition spricht von einem “sehr schlimmen Ergebnis”.

「日本の首相、安倍晋三率いる保守的な右派政党が、最初の開票予想で明らかにリードしている。対して、野党は“惨敗である”と語った」

唯一、小見出しで改憲のことに触れていませんが、やはり紙面の中では改憲のこと、北朝鮮のことに触れています。特に、北朝鮮問題のおかげで、与党の支持率があがったと、記事の中で述べられています。

こちらも、締めくくりは台風のことで終えられていました。見た感じ、割とニュートラルな立場から書かれていた気がします。