職歴?学歴?人脈?ドイツで就職活動するにあたって何が重要か

日本とドイツの社会とでは、求められているものが根本的に異なります。日本の場合、サラリーマンは長期的に会社にとどまることが想定されていますので、面接時点でのスキルよりも、おもに「伸びしろ」が重視されます。

また、個人のスキルよりのチームワークに重きを置いていますので、集団活動(特に部活など)における経験が求められてきます。場合によっては、バイトや海外ボランティアなどもポイントを得ることができるでしょう。

一方、ドイツの場合求められているのは「即戦力」です。ドイツ社会では転職は普通ですので、彼らはそもそも社員を育てる気はそこまでありません。そういった社会の性格が、就活にどのように反映されているのか、今回は見ていきたいと思います。

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ドイツの就活で求められるもの

端的にドイツの就活市場を表すのであれば「即戦力市場」です。育てることをそこまで前提としていないので、年齢よりも実力で評価されます。22歳の伸びしろたっぷりの若者より、その市場を知悉した30歳のベテランのほうが、基本的には好まれる傾向にあります。

ただ、一口に「即戦力」といっても、当然仕事をする前から応募者の実力が分かるわけではありません。具体的には、以下のような項目が、ドイツでの就活市場では重要視される傾向にあります。

1.大学の成績(Abschlussnote)

まず、ドイツで就活するにあたって最も重要視されるものの一つが「大学の成績」です。就活以前の段階であるインターンへの応募にあたっても、多くの大企業が大学で「2.5」以上の成績を保持していることを求めており、それを満たせないと応募すらできません。

Laut unserer Studie JobTrends 2017 ist die Examensnote für 58 Prozent der Unternehmen wichtig oder sehr wichtig. Besonders viel Wert auf die Note wird im Bereich Banking/Finanzdienstleister gelegt: Dort ist sie für 68 Prozent wichtig oder sehr wichtig. Dahinter folgt Chemie/Pharma/Healthcare mit 63 Prozent

「JobTrendsの調査によると、58%の企業が大学での成績を“重要”または“とても重要”だと回答している。特に、銀行や金融業界では68%もの企業が成績を重要視し、化学、薬学、医学分野でも63%が重要視している」

逆に言えば、半数近くはあまり重要視していない、とも見れますが、私の調べた限り、ほとんどの「大企業」は成績を重視しています。また、成績以外で卓越したキャリアなどがある場合、補完することも可能なようです。

Ins Siemens Graduate Program schaffen es zum Beispiel nur Elektrotechniker und Naturwissenschaftler mit einem Notenschnitt von mindestens 2,5. Wirtschaftswissenschaftler und Absolventen anderer Studiengänge müssen sogar mit 1,8 oder besser abgeschlossen haben.

「例えば、ジーメンスの大学院卒業者で働けるのは、自然科学や電子工学専攻者の場合で最低でも2.5の成績を保持する者、経済・商学やその他の博士号保持者では1.8以上の成績が要求される。」

というわけで、ドイツの大学・大学院を卒業するときは、どんなに最低でも2.5以上、願わくば1.8以上の好成績を収めておきたいところです。

2.職歴(Arbeiterfahrung)

ここでいう職歴とは「その分野での職歴」です。ドイツは日本のようにジョブローテーションの社会ではありませんので、例えば会社の経理で働きたければ経理の経験、営業で働きたければ営業の経験が必要です。

ですので、「日本で5年間メーカーの営業を務めていた人」は基本的に「メーカーの営業」としての職歴を見なされます。仮に、ドイツで今度はメーカーのマーケティングをしたい場合、経験値はリセットされると考えてください。その場合、ドイツで新たに「マーケティング部門」における「インターンシップ」を経験し、一から経験値を積み上げていくしかありません。

それゆえ、ドイツの大学生・大学院生はみな「インターン」を行うことに躍起になります。私の知り合いでも、大学でとても優秀な成績を残しながらも、仕事経験が全くなく、仕事にありつけない学生もいました。それだけ、学生期間中の仕事経験は重要なのです。

ただ、職種が変わっても唯一リセットされない経験値としては、「マネジメントスキル」が挙げられます。つまり、課長以上の役職で多くの部下を率いた経験があれば、それは多少分野が変わっても通用します。

3.語学スキル(sprachkenntnisse)

求人票などを見ればわかりますが、文系の場合ほとんどのケースで「流暢な英語」と「流暢なドイツ語」が求められます。流暢とは、C1レベルを指しますので、TestDaf4×4レベル、TOEFLでは最低でも100点以上くらいです。

ドイツの大卒者の場合、英語が話せない割合はほぼゼロに等しいです。例えば、以下の表によると、ドイツ人の求職者の97%がマルチリンガル以上、ほぼ8割以上が3か国語を履歴書に書き込んでいます(B1レベルくらいでも書き込んでいる場合もあるので、一概に全員が全員流暢に話せることを意味しませんが)。

それプラス、三か国語、四か国語話せるドイツ人もめずらしくありません。ただ、我々にとっての救いは、「日本語」が流暢なドイツ人は多くないので、そこは希少価値が高いということです。使い道もその分少ないですが

ドイツ人の語学レベル

出典:http://www.e-fellows.net/Karriere/Bewerbung/Lebenslauf/Sprachkenntnisse-im-Lebenslauf

4.海外経験(Auslandserfahrung)

今まではハードスキルばかり見てきましたが、ソフトスキルがまるっきり無視される、というわけではありません。例えば、海外経験(留学、ボランティアなど)も、ドイツでの就活時には評価される対象となります。その意味では、すでに我々は日本で育ち、ドイツで暮らしているので、異文化で自立した生活を送る、と言った面では他のドイツ人に比べてアドバンテージがあります。

それゆえ、会社での面接では「いかにドイツの社会に溶け込んでいるか」を見られることがあります。私が面接を受けた経験では、例えば「日本とドイツの人間関係にどう違いがあるか」とか「積極的にドイツ人相手に意見できるか」とか聞かれました。

つまり、海外経験とは、「単にその国に生活した時間」を指すのではなく、いかに異なる文化を受け入れて順応していったか、を見る試金石なのです。

Natürlich können Berufseinsteiger bereits durch Engagement oder praktische Erfahrungen, die sie in der Rolle eines Praktikanten oder Werkstudenten im Ausland erworben haben, punkten. Nicht nur die Sprachkenntnisse und Sozialkompetenzen werden dadurch tendenziell verbessert. Allein die Tatsache, dass man sich in einem fremden Land zurechtgefunden hat, signalisiert einem HR-Spezialisten, dass man über einen gewissen Grad an Selbstständigkeit und Organisationstalent verfügt

「新卒者にとって社会参加(ボランティア)や実務は重要なので、海外インターンシップなどの海外経験は当然、職探しにあたって高評価である。単に、語学力だけでなく、コミュ力といったソフトスキルも海外経験によって向上する。実際に、海外での勝手が知れた人物だと、人事部によると、自立心、組織力を兼ね備えていることが多いという」

ですので、我々が面接でアピールしなくてはいけないのは、とりあえず日本とドイツの文化の違いをアピールし、いかに自分がそこに順応できているか、というところでしょう。あまりアピールしすぎると、将来駐在としてまた別のアジア地域などに飛ばされることもあります。

5.人脈(Vitamin B)

やれ日本は人間関係が重要だ、コネ入社がどうとか、やれヨーロッパは実力主義でしがらみがないという意見を聞きますが、比較のため、ヨーロッパ人の3割はコネ入社だという事実をまずは紹介しておきます。

Vor Jahren schon zeigte eine Studie der EU-Kommission: Rund ein Drittel aller europäischen Arbeitnehmer zwischen 16 und 29 Jahren finden ihre Jobs über persönliche Kontakte

「すでに何年も前に、EU協議会によると、16歳から29歳までの従業員の3割は、個人的な紹介によって職を得たというデータが示されている」

仕事を得る際だけではなく、職場で良好な人間関係を築くことは、その職場に長く居続けること、あるいは出世のチャンスにもつながると、多くの統計データが述べています。

ドイツでは、このような「社会的関係」のことを「Soziale Beziehung」、このBeziehung(関係)の頭文字「B」をとって、Vitamin Bと言います。

私も、就職時にはドイツ人の友人に助けられました。実際にスキル不足でポジションを得るまでにはいきつきませんでしたが、いくつか応募先を紹介してくれた友人もいます。というわけで、大学生活でいかに現地の信頼のおける友人をつくれるかは、ドイツで就職するにあたってかなり重要なウェイトを占めることとなります。

6.パソコンのスキル(EDV Kenntnisse)

最後に、パソコンのスキルも重要だということをまとめておきます。有名どころではエクセル、パワポ、ワードですが、それに加えて、分野によっては統計ソフト、データ解析システムなどのスキルも要求されてきます。

特に、エクセルやワードの場合、ドイツ語で使おうとなると、すべてのコマンドはドイツ語ですので、慣れるまで時間がかかります。この辺は、大学でのプレゼンや場合によってはアシスタントのアルバイトなどを経て、徐々にスキルアップしていくか、大学でそれ専用の講習を受けるなどする必要があるでしょう。

求められないもの

おまけとして、最後に日本では求められるけど、ドイツの就活では求められないものをまとめていきます。

まず、「部活動」日本ではグループワーク力を図るうえで重要な試金石になるこの部活動の経歴ですが、ドイツでは全く話題に上りません。似たような意味合いで、アルバイト経験もあまり重要ではありません。通訳、翻訳、ウェブデザインなど、手に職を生かしたものなら別として、カフェや居酒屋のバイトはあまり重要ではないようです。学生の本分はあくまで勉強ですので。

次いで、「大学名」。もちろん、ミュンヘン工科大学やハーバードなど、超一流と呼ばれる大学などを卒業していれば別ですが、日本でいうところのFラン大学だろうが、早慶を出ていようが、ドイツ人にとってはあまり関係ありません。私の感覚では、悪い成績の慶応生より、いい成績のFラン大学生のほうがドイツの就活マーケットでは重宝されると思います。

あと、努力とか根性とかもあまり求められません。面接で「私は毎日夜22時まで仕事する根性があります!」というのは、求められないどことか、かえって逆効果になる危険性もあります。単に労働生産性が無い人間とみなされるので。あくまで彼らが求めているのは結果です、過程はそこまで重要ではありません。