ドイツのMBA的視点:日本型経営の問題点、なぜ日本産業は衰退したのか

1980年代、バブル期真っ盛りのころ、日系企業はこの世の春を謳歌していました。海外のホテルやビル・骨董品が買い漁われ、世界中各国で日本脅威論が唱えられました。多くの学者が日本のマネジメントシステムの研究をし、その成功を褒めたたえました。

やがてバブルが崩壊し、日本経済にとって冬の時代が訪れます。失われた10年と言われた不景気は、やがて失われた20年と名を変え、ついには失われた30年に達しようとしています。

今回は、日本型経営の問題点と、今後どのように改善していくべきなのかを、ドイツのMBA講義をもとに、検証していきたいと思います。

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世界にブームをもたらした日本型経営

日本型経営、とはなにか、というと、戦後間もない1958年、ジェイムズ・アベグレンによって述べられたものが有名です。すなわち「終身雇用」「年功序列」「労働組合」という日本の会社独自にみられる、いわば「長期的な視野(long-term oriented)」な経営方針、というものが特色として挙げられます。

世界最古の企業は、法隆寺を建設した日本の金剛組である、と言われており、第二位、第三位も日本の企業です。株主の意向が強く、常に短期的な利益を追い求めなくてはいけないアメリカ型の経営方針と違い、長期的な目線で経営戦略を行える、というのが、日本型の経営の最大の特徴でした。

この、日本型の長期的な経営方針は、数々のメリットを生み出します。例えば、従業員は終身雇用が補償されていますので、会社に対してより忠誠心を抱くことになり、長時間労働も厭いません。企業内でのジョブローテーションは社員間のコミュニケーションを高め、意思疎通を容易にします。

欧米からすると一見非効率に見える「全員参加型の意思決定方針」も、リスクを避け、全員の納得のいく方針を打ち出す、という意味で、高度経済成長期の日本企業を支えます。

江戸時代の長い封建的な制度を経験した、そして中国発祥の儒教文化の根強い日本にとって、おそらくこうした、「ヒエラルキーのある」「ハーモニーを尊重する」「長期的な信頼関係を重視する」経営方針というものは、日本の風土にピタリと一致したのでしょう。

個人的な部分に重点が置かれる欧米の企業では(individualistic culture)、こうも長期的な視野での経営は成り立たなかったと思います。実際に、1984年、トヨタとゼネラルモーターズが、日本式のトヨタの製造工程を真似するために共同でNUMMIという自動車工場を作り、その日本式制度のアメリカへの移転を図りましたが、失敗に終わっています。

経営戦略とは、全世界で同じものを使えば必ず良い結果が出るわけではなく、その地域地域に応じてローカライズする必要があります。

The message to managers is clear: Adapt your management practices away from the home country standard toward the host country culture –When in Rome, does the Romans do (Newmann and Nollen, 1996)

「マネージャーに向けてのメッセージは明らかだ。要するに、現地でのマネジメントでは本社のやり方を取っ払い、現地の文化に適合したものを用意する必要がある。郷に入っては郷に従え(ローマにきたらローマ人のやる通りにしろ)」

日本型経営とは、いわば日本という独自の文化の中で、その枠組みにあうように作られた、日本企業向けのオーダーメイドの経営方針でした。それは、日本産業の繁栄を支えると同時に、やがて日本産業にとって重しのような足かせとなって苦しめるようになっていきます。

日本式経営の凋落とその理由

バブル崩壊で日本神話が崩壊するとともに、こうした欧米の日本ブームも次第に熱が冷めていきました。いまや日本型の経営方針は、トヨタなど一部の成功モデルが研究されているのを除けば、あまり欧米の研究者の関心を集めていません。

日産がルノーの傘下に加わり、シャープが鴻海に買収され、現在東芝が窮地に立たされています。こうした急速な日本企業の凋落は、日本型の経営方針と関係がないとは言えません。いかに、現在の日本を取り巻く状況を勘案したうえで、なぜ日本型のマネジメント方針がその魔力を失ったのか、まとめていきます。

鴻海によるシャープ買収

https://thepage.jp/detail/20160402-00000004-wordleaf?pattern=2&utm_expid=90592221-74.59YB6KxJS6-oVPGhgabD7Q.2

1.デジタル革命と情報化社会

長期的な目線でのマネジメントを売りにする日本企業にとって災いしたのが、インターネットの普及によるデジタル革命です。20世紀後半、日系企業の商品が世界市場を席巻した時代は、まだ情報伝達は人の手によるところが大半を占めていました。

こうした環境下にあって、要するに日本型の「社員が別の部署の社員をよく知っている」「ツーカーで伝わる」「長年一緒に働いているので説明しなくてもある程度の情報が伝達されていく」といったような経営方針の長所が思う存分に活用されていました。

ところが、インターネットの普及と、デジタル化の加速は、こうした日本の専売特許であった「暗黙知のすり合わせ技術」を無残にも打ち砕きます。情報はデジタル化され、口頭でなくても電子的に視覚化、保存することが可能になりました。企業内の伝達が困難であった技術は、情報化によってたった数秒で国境を越えて他国へ伝達されていきます。

こうして情報はより流動的になり、既存の知識の積み重ねを待たずとも、韓国や台湾のように、デジタル化に成功した国はフォロワーとして、日系企業を一気に追い上げ、一部の産業ではすでに追い越しました。

つまり、日本人型経営のたまものであった、そして専売特許でもあった「情報伝達の正確さ」が、情報化によって日本企業の秘儀ではなくなったのです。

2.コンセンサス重視の経営判断方式と意思決定の遅さ

また、長期的な経営を可能にするためにリスクを嫌う経営判断方式も、世界の情報化が進み、一分一秒の時間の価値が重要になってくるとともに、その問題点を露出するようになってきました。

市場への迅速なアクセス、現地組織の独立性、は企業のグローバル化において大きな課題です。日本型経営の場合、どうしてもマネージャー同士の話し合いによるコンセンサスを必要としてしまうので、現地の支社に裁量決定権が行き届かず、競争相手の後塵を拝す状況が続きます。

一方で、そもそも現地スタッフやマネージャーが話し合いに参加できずに、フラストレーションを貯める、ということも指摘されていました。この部分も、日系企業の海外展開を大きく遅らせた原因の一つでしょう。

In most Japanese companies, there are formal and informal mechanisms that have tended to institutionalize the exclusion of non-Japanese from the decision process(Christopher and Yoshihara, 1988)

「多くの日系企業では、公式にしろ非公式にしろ、日本人以外を意思決定プロセスから排除する、という傾向にある」

実際に、欧米の会社と比較すると、日系企業が海外のマネージャーにどれだけ多く日本人を採用し、その裁量決定権を本社でコントロールしているかが分かります。

3.人事マネジメントの弊害と硬直性、イノベーションの欠如

長期的な人事マネジメントは、他方で社員の忠誠心をはぐくみ、長期的な視野での教育を可能にする一方で、他方では組織の柔軟性を奪います。

会社と社員、あるいは企業間の長期的な信頼関係が、いわば「菊と刀」で扱われているように「恩」と「奉公」の関係のような、利害を超えたものになってしまうと、会社は簡単に社員を切り離せませんし、会社も関係を断てません。系列(Keiretsu)という硬直化したコングロマリット集団が、形式的には崩されたとはいえ、やはり義理や人情、関係を重んじるのが日本の会社の良いところでもあり、悪いところでもあります。

忠臣蔵の一幕

http://www.kadokawa-pictures.jp/official/tyusingura/

同じ会社や社員との関係性が長く続いてしまうと、会社はイノベーションを起こすための技術提携や、技術流入などを起こしづらくなります。特に、シャープのように一つの製品を垂直統合的にすべて自社でまかなおうとしてしまうと、製品工程のブラックボックス化には成功するものの、他社とのシナジー効果が得られず、一気に孤立するリスクが高まります。

ドイツの大企業、中小企業が、国内外の知識階級を多く採用し、つねにR&Dによるイノベーションをはかりやすい風土を作り上げている一方で、日系企業はいまだに旧態依然としている、と言わざるをえません。

なぜドイツの輸出産業は成功したのか

日系企業が徐々にではありますが、留学生の採用に力を入れ始めているとはいえ、その試みはまだまだ遅れていると言わざるをえません。私の外国人の友人も「パンフレットも説明会も日本語なので、そもそも高度な日本語レベルが要求される」「インターン制度がないので仕組みがよく分からない」など、日系企業の外国人人材採用の動きに関して、苦言を呈していました。

The only way to help Japan surf these globalization waves and escape drowning in them is not to avoid them but to nurture talented young people who are accustomed to global activities in a wide of range of fields, and who are capable of communicating with their foreign counterparts (Kurihara, 2009)

「日本がグローバル化の波におぼれないようにする手段は、それを避けるのではなく、外国の様々な文化に慣れ、海外と折衝できるような若い人材を育てることである」

今後の日系の経営方針の方向性

上述の通り、マネジメントは、その国の風土にあったものがとられる必要があります。日本にアメリカ式の「短期利益追求」「年功序列を軽んじた」ような社風が根付くことはないでしょう。それは、日本人というDNAに「集団を重んじる(Collectivistic)」「リスクを避ける(Risk-aversion)」といったような性質が刻まれており、ここにアメリカ的なギャンブリングな人事制度は合致しないはずです。

とあれば、先ほどの述べたような日本的な経営方針の悪い部分を改善しつつ、良い部分を残していく方法にもっていく必要があります。これは、産業、海外展開、などにも大きく左右されてきますので、一概に「こういったマネジメント方式がよい」ということは述べられません。

最後に、国民の幸せは必ずしもGDPの増加と比例しません。韓国はIMFの介入を受け、多くのリストラを断行しました。確かに韓国のGDPは増え、サムソンやヒュンダイのように世界的に成功した企業も生まれましたが、そのドラスティックな経済政策の影で、多くの破産者と自殺者、社会的敗者を生み出しました。

おそらく、短期的な利益を追求するのであれば、日本への外資企業の制限関係を根こそぎ取っ払い、年功序列を廃止し、完全な実力主義にすれば、表向きの効果はもしかしたら出るかもしれません。ただし、それで国民が幸せになるのかどうかは、また別問題です。

私個人としては、日系企業には、日本人の性格に適した経営方針で、国民の雇用と家庭の幸福をいつまでも守っていってもらいたいと思っています。