MBAの人的資源管理から学ぶその1:海外(ドイツ)での生活に適した人

海外に長いこと滞在し、社会的に成功する人がいます。かたや、日本で華々しいキャリアや学問的成功をおさめつつも、海外に来た途端挫折を味わい、早々に帰国する人々もいます。

いったいこうした人々の違いは何なのでしょうか?今回は、International Human Resource Management(国際的人事)の分野から、海外で成功する人、失敗する人の違いをひも解いていきたいと思います。

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ドイツに来たはいいが・・

最近、よく留学関連の質問をいただきます。日本では大学に行っていないけども大丈夫か、〇〇歳を超えているけれども大丈夫か、海外に来るのは初めてだけれども大丈夫かなどなど、です。

まず、結論から言うと来てみないと分からない、です。どんなに社交的で一流の大学を出ている人の中にも海外での水が合わない人もいますし、英語やドイツ語が話せない、海外旅行の経験すらない、そして大学を出ていないような場合でもすんなり適応できてしまう場合もあります。

わたしの思うに、英語やドイツ語力の有無、海外経験の有無、資金、社会人経験の有無、年齢、なども適応できるかどうかの一つの判断材料にはなりますが、それよりも重要なのが実は「本人の気質」です。本人の気質さえそぐえば、正直ドイツ語やら英語やらは割と後からなんとでもなる部分が大きいです(ならないこともありますが)。

この辺は、少し学問的な分野になるのですが、よく、多国籍企業が現地に従業員を出向させるいわば「expatriate」と呼ばれるような人事の場合も、実は同じ問題に直面します。要するに、どんな人が海外での実務に適しているのだろうか、というのを、出向前にあらかじめ調べよう、という研究です。

というのも、海外出向・駐在員の場合、まず出費が馬鹿になりません。飛行機代は出した、現地でのアパートを借り、嫁さんも帯同させ、運転手も雇い、医療も最高基準のものをうけさせ、などなど。せっかくそんなにお金をかけて出向させているのに、ちっとも成果があがらない、では費用対効果がよろしくないので、なんとかして理想的な人員を見極めよう、というわけです。

ドイツへの留学、生活を考える場合も、少なくとも1年以上の長期滞在になるわけで、こうした性格的な要因は考慮されるべきではあります。以下、どんな人が海外での生活に適しているのか、学問記事に沿ってみていきましょう。ちなみに今回引用する文献はEvolving and enduring challenges in global mobility(Paula Caligiuri, Jaime Bonache)という人材マネジメントの英語記事です。

海外で成功する人の特徴

まずは、記事の抜粋をご覧ください。以下、先天的な性格として、どのようなものを備えた人が海外で成功しやすいかを述べている箇所です。

Both meta-analysis and large scale studies found that the relatively immutable and universal Big Five personality traits of extraversion, openness, emotional stability, agreeableness, and conscientiousness predict of expatriate success.

「メタアナリシス、および広範な研究の結果、以下のビッグ・ファイブと呼ばれる、普遍的5つの人格が海外滞在における成功に密接に関わっていることが分かった、すなわち、”外向性”、”異なる文化などへの寛容性”、”感情的な安定感”、”愛想のよさ”、そして”誠実さ”である。」

論文にはなぜこれらの性格が重要であるのか、も述べられていますが、まあ大体察しはつくかと思います。

Such traits are hard-wired with the genetic code. Personality is important, however, many firms decide their candidate based on their willingness.

「これらの気質は、遺伝子に密接に絡んでいる。人格は海外駐在員を決定するのに重要なファクターであるにも関わらず、多くの企業は、彼らの意思によって駐在員を選ぶ傾向にある。」

そして、こうした気質は後天的なものというよりも、むしろ遺伝子に刻印された、先天的なものであることが述べられています。この辺は生物学の領域になるようです。

もちろん、この論文は企業の海外人事を題材に書かれたものですので、海外における成功、とはいわば「支店の業績向上」などが目安になりますが、海外留学、海外キャリアを考えるうえでも、これらの気質は大事だと思います。いくら頭がよくて仕事ができても、異なる文化の考えや意見に耳を傾けない人はその国で歓迎されません。

それはおそらく、日本にいるかたくなに日本文化を理解しようとしないで六本木でナンパばかりしている不良外人を見ていればなんとなく察しがつくと思いますが、どの国の人も、自分の国に土足で上がり込んで自分の固定観念に塗り固まった意見をさも万国共通の常識のように唱え続ける人間は好みません。ロンドンの常識は東京の常識ではありませんし、逆もしかりです。

これらは、別に遺伝子判別キットを使わなくても、なんとなく今までの経験で判断がつくと思います。ですので、私は極力若いうちの海外留学やボランティアなどをおすすめします。若いうちであれば失敗の取り返しがつきますし、それで自分は海外に適応できない、ということがわかればそれはそれで収穫です。一番恐ろしいのは年を取ってから会社を辞め、いざ海外留学に飛び立ってみたはいいが、現地の生活になじめず、結局日本に帰って職を探すことになる、というケースです。

今回は遺伝子など自分ではどうにもならない部分を押し出しましたが、一方で、後天的に改善できるところもあります。実際にわたしもそこまで外交的でも社交的でもないですが、なんとかドイツでやっていけるようになりました。次回は、海外生活を通して成長するための手段を、同じく、論文からの引用を交えてまとめていきたいと思います。