ドイツ留学を志す社会人に向けた4つのアドバイス

色々な記事で書いていますが、私はもともと日本の大学を卒業後数年間、日本でごくごく普通のサラリーマンとして働いており、いろいろな巡り合わせもあってドイツに留学したわけです。

ですので、これからドイツ留学を考えている「社会人の方」の気持ちには共感できる部分が多いですし、自分自身がそうであったように、極力大勢の方の手助けができればと思っています(ですので、質問などがあればメールいただければと思います)。

今回は、ドイツの大学院を卒業した経験から、これからドイツ留学を目指している社会人の方に向けて僭越ながらいくつか注意点などをまとめていきたいと思います。

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社会人からドイツ留学を目指す人のために

私自身、人にアドバイスできるほど成功もしていませんが、一応会社を退職→ドイツ語の試験をパス→大学院入学→現地で就職というフルコースを経験しましたので、部分的に助言できるところはあると思います。

1.文系の就職は難しい。ドイツの大学院は万能ではない

第一に、これが私の理想と大きくかけ離れていた部分です。おそらく、留学前は、誰もが留学に憧れをいだきます。私もそうでした。特に、ドイツという経済的にも学術的にも有名な国で、有名な大学院を卒業したら、世界中の会社からオファーが殺到するのではないか、と。

ところが、現実はそこまで甘くありません。一応、私はドイツの、トップとは言えないまでも、上位クラスの大学院を卒業しました。成績も、死ぬほど頑張ったのでそこまで悪くはありません。ところが、就活で無双できるほど現地での就職事情は簡単ではありませんでした。

原因の一つに、私の日本でのキャリアを生かせる部分が少ないことです。日本の仕事システムは「ジェネラリストの育成」で、かたやドイツは「スペシャリスト」です。証券会社にいたとはいえ、営業メインでしたので、私には金融工学の知識も、学術的な統計論の知識もありません。このことは、文系がドイツで就職活動するにあたって、大きなネックになります、理系であればまだ救いはあるようですが。

二つ目に、言葉の壁です。私はドイツ語も英語も話せますが、完ぺきではありません。そもそも、日本語ですら、ビジネスレベルで完璧に話せるネイティブの日本人がどれほどいるでしょうか?というわけで、授業に出席し、単位を取る分には問題なくても、人前に出て「流暢に」人を納得させられるドイツ語のプレゼンを行えるかというと、2年ほど大学院で学んだだけでは、てんで不十分なのです。

それゆえ、同じ成績のドイツ人と私を比べたら、ドイツ側としてはドイツ人を採用します。日本語が話せるから優遇される職場、というのは思ったほど多くありません。

私は日本で就活をするつもりはないので、そちらの事情は分かりませんが、ドイツの大学院を出たからといって30歳過ぎの中途採用者を、優遇してくれるような会社がどれくらいあるのかは不明です。

2.大学院に入るのはひたすら面倒、卒業するのは難しい

大学院入学にあたっての条件自体はそこまで難しくありません。基本的には「ドイツ語(英語)能力+大学時代の成績」です。筆記試験や面接を課しているようなところは多くありませんし、時間さえかければ多分多くの人が合格できるでしょう。

ところが、私の今までの記事を読んでいただければわかると思いますが、非常に事務処理が煩雑で、かつドイツ留学の情報が出回っていないので、時間と手間がひたすらかかります。ドイツ到着後は暗中模索状態です。ですので、そこまで並外れた才能が必要だとは私は思いませんが、代わりに莫大な労力を要します。

そして、入学後の話をすると、こちらは才能や容量の良さなどが問われます(私はどちらもないので、人の二倍努力してどうにかやり遂げましたが)。ドイツの大学に入学するドイツ人の層というのは、基本的に小学校時代に選別された「大学に入るべき」人々です。その彼らの中から、さらにふるいにかけられて大学院に進学するのが、大学院生です。

講義や試験は、彼らの水準にあわせて作られていますので、当然難しいです。単に労働時間を比較したら、論文提出前など、私は激務と言われる日本の金融機関で働いていたときよりも仕事した気がします。それだけ頑張って提出した論文や、受けた試験の結果が落第すれすれだったときの絶望感は、筆舌に尽くしがたいです。

いや、卒業すること自体は難しくないかも知れません。難しいのは、ちゃんと公に認められるレベルの成績を残し、卒業することです。

3.楽しいこともたくさんある

就活や試験、論文提出など、嫌なこと、目をつぶりたいこともたくさんありますが、かたや、学生生活そのものを鑑みるに、私は非常に楽しむことができました。友人とスノボーに行ったり、現地で彼女をつくったり、思い付きで近隣諸国に行ったり、曲がりなりにもドイツの大学院生に交じっての学生生活を一通り謳歌したと思います。

逆に言えば、こうした楽しみを見出せなかったら、おそらく私はドイツの大学院生活を耐え抜けていなかったと思います。社会人が異国に一人ぼっちで放り出されるのは、それだけ精神的な負荷がかかります。

4.慎重に、かつ大胆に

最後に、私の社会人からのドイツ留学に関する感想です。

私がここ数年、つまり留学をはじめてドイツに来て驚いたのが、世界中のなんと多くの人々が人生を適当に考えているのだろう、ということです。

私は、高校では進学校に入り、部活をし、ちゃんとした大学に入り、ちゃんとした会社に入り、と、いわゆる「普通」の生き方をしてきました。それゆえ、常に将来のリスクを計算し、情報収集をしてからでないと行動に移せません。

ところが、私が欧州で知り合った多くの人は、もう少し人生を雑に考えています。彼らは、「来てみればなんとかなるだろう」というノリでドイツに来て、なんとか仕事を見つけたり、大学に籍をおいたりします(特にラテン系に多いのですが)。もちろん、中には挫折する人間もたくさんいますが。

さて、我々のような日本人も、こうした放埓さを見習うべきなのでしょうか?人には得手不得手がありますので、少なくとも私が、彼らのような無計画なプランで人生を進めていったら、火傷をする気がします。ですので、まるっきり無計画に、というのはお勧めしません。

ところが、一方で、社会人が留学するためには、必ずこの「崖から跳躍する大胆さ」が必要になる瞬間があります。私が上司に退職を願い出る日の前日は、ただ漠然とした思い付きで会社を辞めてしまっていいものか、と不安で眠れませんでした。

多分、今までの人生で、A社かB社か、浪人か進学か、のような選択を迫られる場面は多くの人にあったと思いますが、海外留学のようにレールの上から飛び降りる、という進路を経験した人は、そう多くはないでしょう。この、どこからともなく降りてくる最後の一押しが、おそらくつねに「留学したいしたい」と言っていつの間にかその機会を逃す人と、逃さない人の違いでしょう。もちろん、どちらが良いとは言えません。

いくら考えても、100%確実なものなんてありません。99%大丈夫だと思っていても、思いもよらぬ障害に阻まれたり、私のように、つねに綱渡り状態で留学し、卒業までこぎつけたものもいます。

ドイツに来てしまえばなんとかなる、とは言いませんが、ある程度まではなんとかなります。準備不十分で来てうまくいくほど甘くはありませんが、完璧な準備をしようと思うと永遠に時間を費やすことになります。

私の場合は、幸か不幸か、留学を決断した時点では、たいした役職でもなく、妻も子供もいない身軽な状況で、いわば失うものがそこまでありませんでした。そうした人間の人生の価値が、妻帯者などに比べて軽いとまでは言いませんが、やはり、レールから飛び降りる際の助けにはなるでしょう。

ですので、社会的、体力的、そして新しいことを覚える学力的にも、20代後半から30歳までくらいが、やはり海外留学をおこなうための絶妙なタイミングなのではないかと思います。これが、私のドイツ留学を終えた感想です。